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2014年 06月 14日
入所当時、勤めていたK事務所は四谷駅のすぐそばにあった。 それから4ヶ月後、池袋のサンシャインビルに移った。とてもガッカリした。 昼ごはんを食べて迎賓館の前でキャッチボールをしたり、仕事が終わった後や休日出勤の後にジャズ喫茶の「いーぐる」でゆっくりジャズを聴いたり、私は四谷の生活を満喫していた。 その日も「いーぐる」でゆっくりしていた。 客はまばらで、リクエストをするには都合がよかった。 明日は野球の試合だったので、「気合いが入るジャズを!」と変なリクエストをした。 マスターのGさんは怪訝な顔をしながら黙って一枚のレコードをターンテーブルに載せた。 やがてそれが掛かった。 びっくりした。 いきなりハイテンションのピアノがガンガンガンと来てカウベルのチンチンチンのリズムに乗りながら快調にぶっ飛ばし、そのうち転調してメロディックになったかと思いきやまた前のガンガンガンチンチンチンに戻って再びぶっ飛ばし、それが一段落して今度はアラビア風のエキゾチックなメロディーが始まりそのまま緊張感のあるアドリブが続いてドラムソロに移ったと思った瞬間演奏は止まってしまう。 何なんだ?これは!と思っていると、2曲目もあのハイテンションのピアノのガンガンガンで始まる同じ演奏で、今度はカウベルのチンチンチンは幾分遅れめで少しずれた空間をつくりながらそのままドラムソロまで行き、今回は順調だなと思った瞬間ピアノがガンガンガンと入ってきて、強引にエンディングにねじ込んでしまう。 フーッとため息をついていると、何と3曲目もあのハイテンションのピアノのガンガンガンで、今回はもっとカウベルのチンチンチンは遅れめでその分タイコの音がよく聴こえ、ドラムソロもちゃんとして、3つの中では一番バランスが良かったが、緊張感この上ない殺気立った演奏が3連発続いたので、さすがに聴き終わった時は疲れた。 気合いが入るどころか、気合いを使い果たしてノックアウトされたような気分だった。 これがバド・パウエルの「The Amazing Bud Powell Vol.1」との出会いで、私をノックアウトした曲は「Un Poco Loco」だった。 ウン・ポコ・ロコ。 なんて変なタイトルなんだろう! 意味は"A Little Crazy"らしいが、意味なんかどうでもいいくらい、この不思議な語感と異様な演奏は私の心に強烈に残った。 「どこが”ちょっと”なんだよ!本当にクレイジーだぜ!!」 それにしても同じ曲を3回続けて演奏する、しかもそれが最初に入っている、というのはとても不思議だ。 今なら、未発表テープ発見!とか何とか言いながら、余った時間の穴埋めにカスの録音を詰め込んで、そのためアルバムの美意識や品格を台無しにするアホなJazzのCDの例はたくさんあるが、この当時のLPでは聞いたことがない。(チャーリー・パーカーのダイアル・セッションやサヴォイのコンプリート盤の例はあるが、それはアドリブがすべて異なる天才パーカーだからおもしろいわけで、しかもあくまでもマニア向けだ) しかも3つ続けたことで逆に強烈なインパクトを発している。 これを編集したブルーノートのアルフレッド・ライオンも最初は1つにするつもりだったろう。しかし1つ目の荒削りだが豪快で躍動感のある演奏は捨て難く、2つ目めのやはり豪快で強引な演奏も捨て難く、結局3つ続けることで、それができて行く過程そのものを1つの作品としたのだろう。そしてその判断は間違っていなかった。 だから今こうして天才バド・パウエルのピアノと天才マックス・ローチのドラムの構成の妙と変化を私達は楽しむことができる。 演奏中の横顔をアップしたジャケットも鬼気迫る演奏とマッチしててなかなかいい。 (ブルーノートのジャケットはジャズの香り漂うものが多くて好きだが、これもお気に入りの一枚だ) この「Un Poco Loco」(特に最初の1st take)を聴くと、後年の「クレオパトラの夢」にも通じるエキゾチック趣味のあることがわかる。 また、アドリブ部分の雰囲気はモンクと少し似ている。 実際、バドはモンクを尊敬し、仲も良かったらしい。(モンクの方が7つ年上) 1945年に二人でいる所を白人警官に襲われ、バドは頭部をこん棒で殴られ損傷を負ってしまう。これが原因で生じた精神障害の治療で受けた電気ショック療法や麻薬、アルコール中毒で、バドのその後の演奏は波乱に富んだものとなる。 (この「Un Poco Loco」録音時も精神的に不安定で、トイレに行くと言って雲隠れし、みんな待ちくたびれてカリカリし帰ろうとした矢先に突然戻ってきて「OK、OK、さぁやろう!」と言って、いきなり1st takeを録音し、それがとても良かったのでローチのリクエストで2nd takeを、バドのリクエストで3rd takeを録ったらしい) バド・パウエルはよくモダンジャズピアノの創始者で、後世のピアニストに多大な影響を与えたと言われる。(そしてそれは正しい意見だと思うが、)それだけでなく、モダンジャズが生成されて行くスリリングな過程を、パーカーと同様、最も体現しそれを録音に残したピアニストだ。 だから、彼のアルバムを聴くのはとてもおもしろい。 ルーストやクレフに吹き込んだ1940年代後半の全盛期の超早弾きの演奏は録音が悪くて聴くのに少し忍耐がいるが、慣れるとおもしろい。 それに比べ、50年代後半や60年代の精神障害で覇気を無くした演奏(「リラックスしている」という人もいるが)は音は良いが、私はそれほど興味はない。 やはり気合いの入ったバド・パウエルが一番いい。 Jazzは”ちょっとクレイジー”がいい。 建築にも言える。 かずま
by odyssey-of-iska
| 2014-06-14 23:20
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